
『ある男』は単行本で最初を立ち読みしたときにモームみたいだなと思って期待していたのだった。
昔、平野啓一郎の『ドーン』を読んだことがあって理知的だなという印象だったのだが、今回はほんとうにおもしろかった。夫婦のうまくいかない感じとか、子供を叱ったあとの罪悪感とか、このひとはほんとうに頑張って生きてきたんだなと(AI美空ひばりのようで偉そうだが)感じた。大江健三郎的でもあったかな。
前半楽しく読んで、真相に近づくにつれて読んでいくのが辛くなっていく感じがあった。仕方のないことなのかもしれないが、前半楽しく、後半もっと楽しくなったらいいな、と思う。
小説を読んでいると、人間の汚い部分をどうしても見せられることが多いのだが、だんだんそういうのを読むのが辛くなってきた。
吉田修一が続けて読めないのもそういう理由のように思う。
『ある男』では『羊たちの沈黙』のレクターを思わせる小見浦という人物が印象に残る。印象に残ってとっても面白いのだが、だんだんと辛くなる。
推理小説的で松本清張的な話なのだが、完全に純文学でおもしろく、今年読んだ小説の中でおそらくもっともおもしろかった。
こんなに気持ちを揺さぶられた小説はこのところなかった。
ただ、そんなに世の中ってジャズが溢れているかなというところが疑問だった。ジャズに全く興味が持てない。